◎視覚障害者が公共図書館で働く意義と目的(歴史、現状報告を含む) 講師:服部敦司(枚方市立中央図書館、公共図書館で働く視覚障害職員の会代表) 視覚障害者が公共図書館で働く意義と目的を、歴史や現状、それに読書バリアフリー法との関連から考え、ピアサポートの重要性についてお話します。 1 歴史 1970年代、公共図書館に障害者サービスが広がる 1974年、都立中央図書館に初の視覚障害職員が誕生 1975年、著作権問題が起こる 1981年、国際障害者年 → 「完全参加と平等」 1984年、「AOK・点字入力・音声出力ワープロ」が開発される 1988年、「IBMてんやく広場」がスタート 1989年、公共図書館で働く視覚障害職員の会(なごや会)が発足 1990年代以降、情報通信技術と資料のデジタル化が大きく進展 1997年、DAISYが録音図書の「国際標準」に決まる 2010年代以降、条約、法律が整備される ・著作権法【2010年/2019年施行】 ・障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)【2014年批准】 ・障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)【2016年施行】 ・盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約(マラケシュ条約)【2018年批准】 ・視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律(読書バリアフリー法)【2019年施行】 2 現状 (1)人数 雇用総数 27人(国立国会図書館 大学図書館を含む) 県立・市立の別 都府県立 11人、市区立 13人、国立国会図書館 2人、大学図書館 1人 雇用形態 正職 25人、非常勤 2人 全盲・弱視の別 全盲 21人、弱視 6人 (2021年1月、なごや会調べ) (2)職場環境 ・スクリーンリーダー(画面読み上げソフト)、点字ディスプレー等、事務支援ソフト及び機器類 ・職場における人的支援 (3)業務内容 ・障害者サービス用資料の製作 ・障害者サービス用資料の所蔵調査・貸出 ・対面朗読サービスの調整 ・障害者サービス・事業の企画立案 ・音訳者等の養成・研修、講師業務 ・読書器やIT機器の操作の指導 3 効果と課題 (1)効果 視覚障害当事者がサービス提供者側にいることでより適切な読書支援が可能になる。 ・障害のある職員がいることで、同じ障害を持つ利用者が親近感を感じて、図書館の敷居が低くなり、利用が促進される。 (2)課題 公共図書館で働く視覚障害職員の事例がほとんど知られていないことから、自治体での採用が進まない。そして、同じ理由から図書館員をめざす視覚障害者が増えない。 4 まとめ  公共図書館の障害者サービスは、点字・録音図書の貸出、対面朗読など視覚障害者向けのサービスを基礎に発展し、さまざまな障害者へのサービスへと拡大してきました。視覚障害者は、自らの経験を生かすことで、見えない・見えにくい人のニーズや読書の方法などを把握しやすい立場にあります。そんな視覚障害者がサービスの提供者側に加わることで図書館の障害者サービスをより使いやすいものにしてきました。これまで40年以上にわたり30人を超える視覚障害者が各地の公共図書館で働き、障害者サービスの分野で大きな役割を果たしてきたのです。  読書バリアフリー法が成立し、その17条で「ピアサポート」が明記されたことで、これまで以上に障害のある図書館員の存在が重要視されることになります。この法律で「ピアサポート」が位置づけられた意味は、図書館における障害当事者の存在とその視点に立ったサービスを実施することで、読書バリアフリーの実現をめざすところにあります。 こうした理念を理解し、1館でも多くの図書館が障害者サービスに取り組み、障害者の読書環境の改善のために、最初の一歩を踏み出していただければと願っています。 <参考資料> 『見えない・見えにくい人も「読める」図書館』 公共図書館で働く視覚障害職員の会 編集 読書工房 2009年11月 公共図書館で働く視覚障害職員の会 「なごや会」 会報第50号(記念特集号) https://www.nagoyakai.com/kaiho/index.shtml パンフレット「公共図書館は視覚障害者が活躍できる職場です」 http://www.nagoyakai.com/pamphlet/index.shtml