◎基本研修1 視覚障害者等の読書環境に係わる法・制度等の基本 (著作権法、郵便法、マラケシュ条約、読書バリアフリー法等) 講師:杉田正幸(国立国会図書館関西館、日本図書館協会 障害者サービス委員会 関西小委員会委員長) 1.障害者サービスに関する法・制度の最近の動き (1)障害者の権利に関する条約 2006年12月国連採択 (2)著作権法第37条第3項 2009年6月改正 この法改正で視覚障害者等用資料を公共図書館が著作者の許諾なく制作できるようになった、発達障害者等への対象者の拡張、資料の譲渡が認められた (3)障害者差別解消法 2013年6月制定 (4)障害者の権利に関する条約 2014年1月批准 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/index_shogaisha.html (5)図書館における障害を理由とする差別の解消の推進に関するガイドライン 2016年3月 http://www.jla.or.jp/portals/0/html/lsh/sabekai_guideline.html (6)障害者差別解消法 2016年4月施行 https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai.html (7)盲人,視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約(略称:視覚障害者等による著作物の利用機会促進マラケシュ条約) 2018年10月寄託、2019年1月より効力発生 https://www.mofa.go.jp/mofaj/ila/et/page25_001279.html (8)著作権法改正 2019年1月施行 https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/h30_hokaisei/ 適用対象となる障害種の肢体不自由者までの拡張、製作したデータの電子メール送信、製作主体のボランティア団体への拡張 (9)視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律(読書バリアフリー法) 2019年6月施行 https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/gakusyushien/1421441.htm (10)視覚障害者等の読書環境の整備の推進に係る基本的な計画 2020年7月策定 https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/mext_00265.html 2.著作権法 (1)点字図書:誰が作ってもよい。誰が提供してもよい。(37条1項、2項) ・貸出(第38条第4項による) ・譲渡(第47条の7による) ・ネット送信(自動公衆送信) ・メール送信(公衆送信) (2)録音図書、マルチメディアDAISY、テキストデータなど(第37条第3項) ・貸出(第38条第4項による) ・譲渡(第47条の7による) ・ネット送信(自動公衆送信) ・メール送信(公衆送信) ①障害者入所施設や図書館等の公共施設の設置者(著作権法施行令 第二条 視覚障害者等のための複製等が認められる者) ・障害児入所施設及び児童発達支援センター ・大学等の図書館及びこれに類する施設 ・国立国会図書館 ・視聴覚障害者情報提供施設 ・図書館法第二条第一項の図書館(司書等が置かれているものに限る) ・学校図書館 ・養護老人ホーム及び特別養護老人ホーム ・障害者支援施設及び障害福祉サービス事業(生活介護、自立訓練、就労移行支援又は就労継続支援を行う事業に限る)を行う施設 ②文化庁長官が個別に指定する者 視覚障害者等のための複製・公衆送信が認められる者について(文化庁) https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/1412247.html 文化庁長官の個別指定を受けている団体一覧 https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/pdf/r1412247_03.pdf ③視覚障害者等のために情報を提供する事業を行う法人(法人格を有しないボランティア団体等を含む)で要件を満たす者 視覚障害者等のための複製・公衆送信が認められる者の一覧(一般社団法人 授業目的公衆送信補償金等管理協会) https://sartras.or.jp/dai37jyo/ 著作権法施行令第2条第1項第2号の視覚障害者等のための複製・公衆送信が認められる者の一覧(2020年12月24日更新版) https://sartras.or.jp/wp-content/uploads/37_list.pdf イ 技術的能力及び経理的基礎を有していること ロ 法に関する知識を有する職員が置かれていること ハ 視覚障害者等の名簿を作成していること ニ 法人の名称並びに代表者の氏名及び連絡先その他、文部科学省令で定めるところにより、公表していること (3)図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン(日本図書館協会など5団体):著作権法第37条第3項に規定される権利制限に基づいて、「視覚障害その他の障害により視覚による表現の認識が困難な者」に対して図書館サービスを実施しようとする図書館が、著作物の複製・譲渡・公衆送信を行う場合に、その取り扱いの指針を示すことを目的とするもの。 https://www.jla.or.jp/library/gudeline/tabid/865/Default.aspx 別表1「ガイドラインで想定される障害」 別表2「利用登録確認項目リスト」 (4)著作権法第37条第3項ただし書該当資料確認リスト(日本図書館協会):出版されている場合は購入や相互貸借により提供(新たに製作はできない) https://www.jla.or.jp/library/gudeline/tabid/859/Default.aspx 3.郵便法 (1)点字郵便物、特定録音物等郵便物:点字は誰でも送れる、録音は指定を受けた施設のみ 盲人用郵便物(日本郵便) https://www.post.japanpost.jp/int/service/braille_points.html 特定録音物等郵便物を発受することができる施設(日本郵便) https://www.post.japanpost.jp/service/standard/shisetsu/index.html 様式49特定録音物等郵便物発受施設指定請求書(内国郵便約款第177条関係) http://www.post.japanpost.jp/about/yakkan/7-1.pdf (2)図書館用ゆうメール(心身障害者用ゆうメール):図書館と障がいのある方との間で図書を閲覧するために発受することができるサービス(届け出制) https://www.post.japanpost.jp/img/service/you_pack/goriyou_annai.pdf 様式8 心身障害者用ゆうメール利用( )届(心身障害者用ゆうメール運賃料金表Ⅱの1関係) https://www.post.japanpost.jp/about/yakkan/7-4.pdf (3)聴覚障がい者用ゆうパック:字幕入り・手話入りの映像資料を指定施設から聴覚障害者に送付することができるサービス(届け出制) 聴覚障がい者用ゆうパック(日本郵便) https://www.post.japanpost.jp/service/you_pack/disablity/index.html 日本郵便株式会社が指定した聴覚障がい者の福祉を増進することを目的とする施設(日本郵便) https://www.post.japanpost.jp/service/you_pack/disablity/shisetsu.html 様式4 聴覚障害者用ゆうパック発受施設指定請求書(聴覚障害者用ゆうパック運賃料金表Ⅱ関係) https://www.post.japanpost.jp/about/yakkan/7-4.pdf 4.マラケシュ条約 盲人,視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約の締結に伴う利用しやすい様式の複製物の国境を越える交換について(文化庁) https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/marrakesh/ マラケシュ条約は、視覚障害者等による発行された著作物の利用を促進するため、[1]視覚障害者等のための著作権の制限及び例外を設定するとともに、[2]当該制限及び例外を適用することにより作成された著作物の複製物を本条約の締約国間で交換する体制を整備するもの (1)本条約における「著作物」とは、発行されているか又は他のいかなる媒体において公に利用可能なものとされているかを問わず、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約第2条(1)に規定する文学的及び美術的著作物であって、文字・記号又は関連する図解の形式によるものであること。(第2条(a)) (2)本条約における「受益者」は、[1]盲人である者、[2]視覚障害又は知覚若しくは読字に関する障害のある者であって、印刷された著作物をそのような障害のない者と実質的に同程度に読むことができないもの、[3]身体的な障害により、書籍を持つこと若しくは取り扱うことができず、又は目の焦点を合わせること若しくは目を動かすことができない者のいずれかに該当する者であること。(第3条) (3)締約国は、受益者のために著作物を利用しやすい様式の複製物(点字・大きな文字の書籍・デジタル録音図書等)の形態で利用可能とすることを促進するため、自国の著作権法において、複製権・譲渡権及び公衆の利用が可能となるような状態に置く権利の制限又は例外について定めること。(第4条) (4)締約国は、利用しやすい様式の複製物が作成される場合には、権限を与えられた機関(Authorized Entity)(以下「AE」という。)が、当該利用しやすい様式の複製物を他の締約国の受益者若しくはAEに譲渡し、又は他の締約国の受益者若しくはAEの利用が可能となるような状態に置くことができることを定めること。(第5条) (5)締約国の国内法令は、受益者等又はAEが著作物の利用しやすい様式の複製物を作成することを認める範囲において、権利者の許諾を得ることなく受益者のために利用しやすい様式の複製物を輸入することを認めるものとすること。(第6条) 国内のマラケシュ条約におけるAEには著作権法施行令第2条第1項各号に規定するものがなれるが、国内外の窓口機能として中心的な役割を果たす機関として、当面、国立国会図書館及び特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会が当たる。 国立国会図書館「マラケシュ条約に基づく読書困難者のための 書籍データの国際交換サービス」を開始 https://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2019/marrakesh.html 障害者向け資料検索結果|「ABC Global Book Service」に一致する資料(国立国会図書館サーチ) https://iss.ndl.go.jp/books?any=ABC+Global+Book+Service&filters%5B%5D=0_R100000073&mediatypes%5B%5D=8&search_mode=handicapped 5.視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律(読書バリアフリー法) (1)「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律(令和元年法律第49号)」が令和元年6月28日に公布・施行 ①視覚障害者等(=視覚障害、発達障害、肢体不自由等の障害により、書籍について、視覚による表現の認識が困難な者)の読書環境の整備を総合的かつ計画的に推進 ②障害の有無にかかわらず全ての国民が等しく読書を通じて文字・活字文化の恵沢を享受することができる社会の実現に寄与 (2)国・地方公共団体の責務(4条・5条) ①国は、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する施策を総合的に策定・実施 ②地方公共団体は、国との連携を図りつつ、地域の実情を踏まえ、施策を策定・実施 (3)基本的施策(9条~17条) ①視覚障害者等の図書館利用に係る体制整備等(9条) ②インターネットを利用したサービス提供体制の強化(10条) ③特定書籍・特定電子書籍等の製作の支援(11条) ④アクセシブルな電子書籍等の販売等の促進等(12条) ⑤国からのアクセシブルな電子書籍等の入手のための環境整備(13条) ⑥端末機器等・これに関する情報の入手支援(14条) ⑦情報通信技術の習得支援(15条) ⑧アクセシブルな電子書籍等・端末機器等に係る先端的技術等の研究開発の推進等(16条) ⑨製作人材・図書館サービス人材の育成等(17条) 6.視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画 読書バリアフリー法 第7条に基づき、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため令和2年6月28日に国が策定したもの (1)アクセシブルな電子書籍等の普及及びアクセシブルな書籍の継続的な提供  ・アクセシブルな電子書籍等(=音声読み上げ対応の電子書籍、デイジー図書、オーディオブック、テキストデータ等)について、市場で流通するものと、著作権法第37条に基づき障害者施設、図書館等により製作される電子書籍等を車の両輪として、その普及を図る。  ・視覚障害者等の需要を踏まえ、引き続きアクセシブルな書籍(=点字図書、拡大図書等)を提供するための取組を推進する。 (2)アクセシブルな書籍・電子書籍等の量的拡充・質の向上  ・公立図書館、点字図書館、大学及び高等専門学校の附属図書館、学校図書館、国立国会図書館において各々の果たすべき役割に応じアクセシブルな書籍等を充実させる。 ・アクセシブルな書籍等を全国の視覚障害者等に届ける仕組みとして図書館間の連携やネットワークを構築する。 (3)視覚障害者等の障害の種類・程度に応じた配慮 ・読書環境の整備を進めるに当たり、視覚障害者等の個々のニーズに応じた適切な形態の書籍等を用意する。 【施策の方向性】 (1)視覚障害者等による図書館の利用に係る体制の整備等(9条関係) ・公立図書館等や国立国会図書館、点字図書館におけるアクセシブルな書籍等の充実 ・各図書館の特性や利用者のニーズ等に応じた、円滑な利用のための支援の充実 ・視覚障害等のある児童生徒及び学生等が在籍する学校における読書環境の保障 ・公立図書館等における障害者サービスの充実 (2)インターネットを利用したサービスの提供体制の強化(10条関係) ・アクセシブルな書籍等の統合的な検索システムに係る十分な周知 ・国立国会図書館やサピエ図書館のサービスの周知、サービス内容や提供体制等の検討 ・サピエ図書館への会員加入の促進などサピエ図書館の安定的な運営に資する支援の推進 (3)特定書籍・特定電子書籍等の製作の支援(11条関係) ・サピエ図書館における製作手順や仕様基準の作成支援 ・特定書籍・特定電子書籍等(=著作権法第37条により製作されるアクセシブルな書籍・電子書籍等)の製作ノウハウ共有等による製作の効率化 ・製作者への電磁的記録の提供に関する課題や具体的方法について出版関係者との検討の場を設置 (4)アクセシブルな電子書籍等の販売等の促進等(12条関係) ・ICT技術等の進歩を適切に反映した規格等の普及の促進 ・アクセシブルな電子書籍等の販売等に関する著作権者と出版者との契約に資する情報提供 ・書籍購入者への電磁的記録の提供に関する課題や具体的方法について出版関係者との検討の場を設置 ・民間電子書籍サービスの図書館への導入を支援 (5)外国からのアクセシブルな電子書籍等の入手のための環境整備(13条関係) ・受入れ・提供機関の役割分担等による円滑な入手及び外国への提供の促進 (6)端末機器等及びこれに関する情報の入手支援、ICTの習得支援(14条・15条関係) ・点字図書館等とICTサポートセンターの連携による端末機器等の情報の入手支援 ・点字図書館と公立図書館の連携によるサピエ図書館等のICTを用いた利用方法に関する相談・習得支援、端末機器の貸出等の支援 ・地方公共団体による端末機器等の給付の実施 (7)アクセシブルな電子書籍等・端末機器等に係る先端的技術等の研究開発の推進等(16条関係) ・研究開発やサービス提供者に対する資金面の支援及び開発成果の普及 (8)製作人材・図書館サービス人材の育成等(17条関係) ・司書、司書教諭・学校司書、職員等の資質向上に資する研修等の実施 ・点訳者・音訳者、アクセシブルな電子データ製作者等の計画的な人材の養成