視覚障害者のための電子書籍のアクセシビリティ基準


 ここ数年電子書籍が本格的に普及し始めてきた。漫画や雑誌が優勢で文芸書や学術書が低調の感はあるが、スマホやタブレットの普及もあって、一つの読書スタイルとして定着しつつあると言える。
 この電子書籍のうち、リフロー型と呼ばれる形式の書籍は画面表示や書式等の面で柔軟性があり、利用する側の見え方に合わせて、ある程度変更が可能である。
また、テキスト情報を音声読み上げさせることも可能であり、視覚障害者の読書の可能性を広げるものとして大いに注目されている。もし、視覚障害者に利用できる電子書籍が増えれば、出版と同時に手を加えることなく、読みたい本を読めるという画期的な状況が生まれる。
 このように大きな可能性を持つ電子書籍だが、今のところ、出版社等提供者側に障害者に対する利用への配慮はほとんど意識されていない。現在販売されている電子書籍の中には今回、私たちが示すアクセシビリティ基準の条件の大部分を満たしている図書もある。ところが、これは、出版社側に障害者へのアクセシビリティを保障するという明確な意思や理念があって、その結果として存在しているものではない。たまたま「使えている」状態にあると言ってよいのだ。つまり 、米国の企業が、本国の障害者法の下開発してきた技術の大部分を日本でも採用したためにもたらされた偶然の結果と言えるのである。
 一方で「誰にも使える電子書籍」といううたい文句で、図書館向けの電子書籍システムを販売する動きもある。こちらは、高齢者や障害者のアクセシビリティに配慮したという点で話題になっているが、アクセシビリティの取り組みとしては不十分で、残念ながら視覚障害者の使用に耐えうるものとは言い難い。
 このように電子書籍は大きな可能性のあるアイテムでありながら、このままでは視覚障害者に使うことのできない商品がまた一つ増えるだけになってしまう。
私たち・なごや会はこのような電子書籍の状況に強い危惧を抱いている。そこで、視覚障害者が電子書籍を利用するに際して不可欠な条件を「視覚障害者のための電子書籍のアクセシビリティ基準」としてまとめることにした。
 2016年4月に施行された「障害者差別解消法」や、これから法制化が見込まれる「読書バリアフリー法(仮称)」の理念を実現するための社会的要求が今後高まることになるだろう。それに伴い、障害者への配慮が求められることになり、民間企業や図書館の責務もこれまで以上に問われることになる。
 この基準が出版社等提供者側の指針となり、視覚障害者にも使いやすい電子書籍の普及に繋がることを強く願うものである。
 なお、この基準は2018年8月現在のものであり、今後、状況の変化により見直す場合がある。


視覚障害者のための電子書籍のアクセシビリティ基準



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Copyright(C)2019 公共図書館で働く視覚障害職員の会(なごや会)
作成日:2019年3月1日、最終更新日:2019年10月20日