「あらゆる文字情報の読み書き支援を図書館で行うべき」という主張に対する私たちの見解


2015年9月 公共図書館で働く視覚障害職員の会 代表 大塚強


私たち公共図書館で働く視覚障害職員の会(なごや会)は、視覚障害者にとって「読み書き支援」が必要かつ不可欠であることを十分に認めた上で、そのあるべき姿を実現することを目指し会としての主張を行うものである。

●大活字文化普及協会内にある読書権保障協議会が表明している主張とは
視覚障害者等通常の活字による読み書きに障害のある人々の日常生活においてはその支援が必要不可欠である。公共図書館はその役割を担うために「読み書き支援」に積極的に取り組むべきである。
ここでいう「読み書き支援」とは、視覚障害者等に対しプライベートなものを含むあらゆる文字資料の内容を代読し、あるいは必要な書類等を作成するための代筆等をいう。

●公共図書館の役割とは
公共図書館は、図書館資料(パブリックな情報、公開されている情報)を障害者を含むあらゆる市民に提供することを基本的な使命としている。対面朗読や障害者用資料の製作・提供は、それを実現するための手段である。

以上の前提に立ち、私たち公共図書館で働く視覚障害職員の会は、「読み書き支援」を公共図書館で積極的に行うべきという主張に対し反対意見を表明する。

以下にその理由を示す。

@障害者の権利に関する条約にいう「障害者への合理的配慮」とは
障害者への合理的配慮は、社会のあらゆる場所でそれぞれが過度な負担にならない範囲で行わなければならないものである。いうまでもなく図書館等どこか特定のところが肩代わりして全てを行うというものではない。
むしろ、図書館は社会に対しその理念を普及させていく責務があるのであって、逆に誤解を与えるようなことをしてはならない。

A「障害者への合理的配慮」の理念
本来情報はそれを出しているところが障害者への情報保障をすべきであり、まずそれが基本原則である。
ところが「読み書き支援を図書館で」という運動の中では、その基本原則には一言も触れられていない。これでは基本を理解しない誤った運動であるといわざるをえない。
役所からの文書は役所が、職場の文書は職場が情報支援すべきことは明確であり、銀行による代筆等は現在でもすぐにできうるサービスである。このように、現実にやるべきものできるものが多数あるのに、それを主張されていないのは不可思議である。

B公共図書館における対面朗読の実施率
「読み書き支援」を公共図書館で行うべきと主張する団体は、それを対面朗読の一部として行うことを想定している。しかしながら、残念なことに全国の公共図書館の内、対面朗読を実施している図書館は2割にも満たない現状がある。
一方、「読み書き支援」を必要としている視覚障害者の多くが行動の自由に障害のあることも明確である。
つまり、仮に図書館が読み書き支援を行っても、ほとんどの障害者は利用することはできない。ほとんど利用できないサービスなのに、図書館が「読み書き支援」を行うべきとする主張をすることには矛盾があるだけでなく、社会に誤った認識を植え付けることになる

C自宅での支援こそが必要
なぜ手紙を読むのにわざわざ図書館まで行かなくてはならないのか。本来、「読み書き支援」はそれを必要としている人々にとって最も便利なところで行われるべきであり、多くの場合は利用者の自宅であると考えるのが極めて自然である。
自宅への代読代筆者の派遣を中心とした福祉システムとして構築すべきものである。

D公共図書館が「読み書き支援」を積極的に行うことの弊害
図書館が「読み書き支援」を代行してしまうと、本来それを行うべきところがやらなくてすんでしまう。行うべきと考えなくなってしまう。また、障害者からの声も出てこない。
さらに、「読み書き支援」のための新規予算や人員の確保は大変難しい状況にあり、結果として、これまで行ってきた資料製作・対面朗読等のサービスが縮減してしまう可能性さえある。

以上述べてきた理由から「読み書き支援」を公共図書館で積極的に行うべきとする主張には反対するものである。「読み書き支援」を必要としているほとんどの人が利用できず、現実的に図書館で行うための予算も確保できず、社会や障害者に誤った認識を与えてしまうような主張を受け入れることは全くできない。
私たちは、今後も関係各方面に向けて、視覚障害者への「読み書き支援」に対する会としての見解を明らかにしていきたいと考えている。