障害者の情報アクセス権と著作権問題の解決を求める声明

 

 

2002年10月

 

 

特定非営利活動法人 全国視覚障害者情報提供施設協会
社団法人 日本図書館協会
公共図書館で働く視覚障害職員の会(なごや会)

 

 

 私たちは、障害者の情報環境の改善をめざし、著作権法の改訂と「情報アクセス権」の法的、及び制度的保障を求めるものである。

 本年2002年が「アジア太平洋障害者の十年」の最終年に当たり、それを記念して、各地で主要な国際会議が開催されるのを機に、国連及び日本政府、そして各国政府に対してこの問題の重要性と解決に向けての取り組みの必要性をここに訴える。

 

 近年、知的所有権に対する意識が高まる中、著作権者の権利を守ろうとする動きが強まっている。特に情報のデジタル化が進む現在ではこの動きは顕著である。もちろん、著作権者の権利は守られなければならない。しかしながら、著作権者の権利の保護を強調するあまり、障害者の情報へのアクセスを妨げるという不本意な結果が生じていることは憂慮すべきである。視覚や聴覚等の障害を持つ人たちが、情報障害者として置き去りにされているのである。

 世界人権宣言は第27条で、「すべて人は、自由に社会の文化生活に参加し、芸術を鑑賞し、及び科学の進歩とその恩恵とにあずかる権利を有すること」、「その創作した科学的、文学的又は美術的作品から生ずる精神的及び物質的利益を保護される権利を有すること」を謳っている。

 視覚障害者にとっての点字訳と音声訳、聴覚障害者にとっての字幕や手話通訳は、それぞれの障害者にとっての重要な情報入手の手段である。また、録音資料は、学習障害(LD)あるいはディスレクシア(Dyslexia)に起因する「読み書き障害」により情報入手が困難な人々にも有益であることが知られている。

 そして、技術の進歩はテレビ放送や映画等への字幕の挿入を容易にしたほか、資料のマルチメディア化を可能にし、音声や字幕、画像等、さまざまな情報の同時提供を実現した。その結果、それぞれの障害者にとってもっとも利用しやすい表現手段を用いての資料製作とその提供を現実のものにしたのである。

 このようにコンピュータの普及と情報通信技術の進展は障害者の情報アクセスに大きな可能性をもたらしつつある。しかし、技術的に可能でありながら、この可能性を妨げているのが現行の著作権法である。

 つまり、録音資料や拡大資料、その他、知的障害者に対する読みやすい文書(easy to read materials)への翻案など、デジタル技術を用いることで、障害者がアクセスしやすくなる可能性を持ちながら、その技術を活かせないという実態が厳然と存在する。そして、この問題は障害児の教科書や学習資料の作成といったところにまで及んでおり、教育を受ける権利まで侵害しているのである。

 また、総ての人に知識や情報を提供することを役割とする公共図書館においても、この著作権問題がその任務の実行の障壁になっている。つまり、公共図書館がすべての情報障害者を対象にしたサービスを行う際に必要となる資料変換が大きく制限されるのである。これは、『ユネスコ公共図書館宣言(1994)』で謳われている公共図書館の使命を大きく妨げていると同時に、情報障害者の知る権利をも侵しているのである。

 

 障害者の情報アクセス権は、「知る権利」や「教育を受ける権利」を支え、「生存権」を保障するためのもっとも基本となる権利である。したがって、これまで述べてきたことから、現在、情報障害者は人権侵害の状態に置かれていると言える。そこで、私たちは障害者の情報アクセス権の保障と著作権問題の解決を求めて、ここに次のことを強く訴えるものである。

 

1.      著作権条約の中で障害者の情報アクセシビリティに配慮した具体的事項を設け、日本をはじめ、各国の著作権法がそれに基づき、早急に改訂されること。

2.      国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)が次の「アジア太平洋障害者の十年」の行動計画の中にこの問題の解決に向け、具体的な取り組みを盛り込
むこと。

3.      障害者の情報アクセス権を国連の権利条約の中に位置付けること、そして、日本をはじめ、各国の障害者差別禁止法でこの権利を明確に保障し、各々の政府
の責任において障害を持つ人の個別ニーズに対応する基準づくりの具体的目標を定めること。

 

以上

 

 

 

 

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